いったいどれだけ、時間がかかったと思っているんだ。
ここまで来るのに、一体どれだけ時間がかかったのかと、思っているんだ。


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ダンダンダンと、激しい音を立ててカンクロウが地下室へ飛び込んできた。
!」
「なぁに、落ち着きなさいよ」
「悪ぃ!」
それでもカンクロウは頭巾を脱ぎ捨てベッドへとどっかりと腰をかける。
大きく上下に揺れて、は乱れた髪を直した。
「んもう!
なによ、そんなに慌ててさ。私はにげないわよ」
「へへ・・・」
カンクロウはなにやら懐をごそごそさせて紙切れを取り出した。
「じゃぁ〜〜〜〜ん!」
「なぁに?」
身を乗り出してカンクロウの出した紙を眺めたは、目を見開き、カンクロウに抱きついた。
「よかったじゃなぁ〜〜〜い!おめでとう!」
「へへ、これで俺も我愛羅に胸を張れるじゃん」
の固い頭に頬を摺り寄せてカンクロウは目を細める。
「傀儡開発局局長・・・」
「近いうちに、公開委任式が行われる・・・。
我愛羅から仕事を任される・・・・!!」
先ほどから弟の名を口にしているカンクロウに、は少し先日のことを思い出した。
―遊びにな、来てくれたんだよ・・・。
「ね、カンクロウ。
ちょっときいてもいい?」
「何だ?」
喜びで快活に笑っているカンクロウに暗い内容の話をするのは気が引けたが、今を逃すといつになるのかが分からないのでは口を開いた。
「あのさ、小さいころ、我愛羅と遊んだこと、ある?」
「・・・何で?」
「話したくないならべつにいいんだけどさ」
案の定顔を曇らせて発言の意図を問うカンクロウには目を合わせていられなくなり、目をそらした。
それでも、カンクロウは一つ溜息を吐いて話し出した。
「無い」
「・・・」
「でも、誘いに来たことなら、ある」
それを聞いて、は驚いた。
先日の我愛羅の話では、カンクロウの記憶は隠蔽されているはずであり、憶えているなんて事はありえないのだ。
の顔を見て、カンクロウは鼻で笑った。
「我愛羅から聞いてるみたいだな、あのシミのこと・・・」
「え、ええ・・・」
身体をずらし、大きなシミに手をあてがう。
「思い出しちまったんだよ、お前をここに連れてきた日に」
「・・・怖かった・・・・?」
「ああ。
でも、今の我愛羅は昔の我愛羅じゃない。
やっとここまで来たのに、そんなくだらないことで今の関係を壊したくない」
「そ」
「・・・・」
「・・・・」
長い沈黙。
そんな中、第三の目で部屋の様子を伺っていた我愛羅は哀しさと嬉しさの混じった溜息をついた。
「やっぱり、怖かったのか・・・」
「風影様?いかがなさいました?」
「バキ、俺達のほかに誰もいないときは敬語を使うなと言っただろう」
「ふん、他に誰が聞いているのか分かったもんじゃないからな」
「いい、俺が許す」
風影室でいつものように書類に目を通していた我愛羅が急に独り言をぼやくなんて珍しいことなので、バキは面白くなってつい、口を挟んだ。
「どうした、もう降参か?」
「そういうワケじゃないんだが・・・・。
しかし、これカンクロウの請求書も入っているんじゃないのか?」
机のはるか上方まで積まれている書類にがっくりと肩を落とす。
「それが、最近アイツの請求書がめっきりなくなってるんだ」
「そうか、それはよいことだ」
「いつも思うが、お前じじむさいぞ」
「じじむさいって言うな。
結構気にしてるんだ」
判を手に取り、書類に目を通し始める我愛羅を見て、バキは部屋を出て行こうとした。
「木の葉の春野サクラ当てに密書を送ってくれないか」
「それは、個人的な御用事ですか?」
「まあ、そうなるが・・・・。恋文ではない」
「なんだ、がっかりさせるな」
「赤砂のサソリとの戦闘記録を出来る限り詳しく送ってよこして欲しい」
「何故?」
「これ以上は口を挟むな。
それと、鷹丸の使用を許可する。
出来る限り早いうちに情報を得たい」
「御意」
次の瞬間、バキの姿は跡形もなくなっていた。
「頼むぞ、春野サクラ」


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血反吐を吐いて築いたこの関係を。
赤の他人になんかに邪魔されてなるものか。